「そんなに俺に会いたいのか? 見知らぬ場所で寂しくなったか」

 天佑は器用に片眉を上げる。

「連絡経路を確認したいだけです」

 玲燕は表情を変えずに答える。

「だろうな」

 天佑はくくっと笑うと、玲燕の後ろに控える鈴々を指す。

「そちらにいる鈴々に言えば連絡はつく」
「わかりました」
「では、またな」

 天佑は今度こそ部屋を出る。
 玲燕はその後ろ姿を見送ってから、今渡された書類をぱらりと捲る。

 鬼火の犯人捜しは錬金術とは違うが、あらゆる情報を読み解き真理を探るという点では錬金術と似ている。

(なんとか情報を集めて、解決の糸口を探さないと)

 玲燕は書類を睨みながら、頭を悩ませたのだった。


  ◇ ◇ ◇


 その日、後宮の空に見慣れぬ物体が浮いた。

「あら、あれは何かしら?」

 回廊を歩く女官達が口々にそう言い、空を見上げる。

「凧? 蓮桂殿(れんけいでん)からだわ」

 赤と黄色の鮮やかな色合いのそれは、優雅に空を舞っていた。
 蓮桂殿は後宮の西側に位置する、蓮妃の住む殿舎だ。

 その蓮桂殿では、明るい声が響いていた。