「はい。先ほど、こちらを落としたので」

 玲燕は手に持っていた算木を見せる。地面に落ちたせいで、一部が土で汚れていた。

「これは何? 積み木?」
「こちらは算木です。計算をするときに使います」
「ふうん、はじめて見たわ」

 蓮妃は不思議そうな顔で算木を見つめる。
 そのとき、玲燕は蓮妃の後ろに控える女官が手に持っているものに気付いた。

「凧揚げをしたのですか?」
「ええ、そうなの。でも、うまく上がらなくて」

 蓮妃は背後を振り返り、玲燕の視線の先にある凧を見る。

「上がらない? 少し見てみても?」

 玲燕は手摺りに手をかけると、ひょいっと廊下に登る。そして、女官から凧を受け取った。

(飾りの付けすぎだわ。それに、結ぶ位置がよくないわね)

 妃の凧だからと気合いを入れてしまったのだろうか。凧には様々な飾りがぶら下がっているせいで重くなっていた。これを揚げるのは一苦労だろう。

「きちんと揚がるように直して差し上げましょうか?」
「本当? あなたにできるの?」
「はい。よく作っていたので」
「作る? 自分で?」

 蓮妃は目を丸くする。