(この子が蓮妃様?)

 玲燕は鈴々に倣い頭を下げつつも、目の前の少女を窺い見た。
 事前に天佑から渡されていた資料によると、蓮妃は国内有力貴族である明家の姫君だ。まだ十二歳なので本来であれば後宮に入る年齢ではないが、一族に結婚適齢期の姫がいないので後宮入りしたと書かれていた。

(確かに、若いわ)

 事前に得ていた情報通り、年齢はまだ十代前半にしか見えなかった。ちょうど視界に映る豪奢な襦裙の裾には、蓮の刺繍が入っていた。
 蓮妃は不思議そうな顔をして玲燕達を見下ろす。

「そっちの人も見慣れない顔ね。新入りかしら?」
「こちらのお方は昨日、後宮に参られました菊妃様でございます」

 鈴々がかしこまって、玲燕を紹介する。すると、蓮妃は少し驚いたように目を見開いた。

「菊妃様? あなたが?」

 蓮妃は興味津々な様子でで玲燕を見つめる。

「はじめまして、蓮妃様。お見苦しいところをお目にかけました」
「別に見苦しくはないわ。渡り廊下から地面に降りるのが見えたから、何をしているのかと思っただけ。どうしてそんなところに?」
「探し物をしておりました」
「探し物? こんなところで?」