皇帝以外の男性は、皇帝の護衛をする武官、宦官や医官など、ごく限られた人間しか立ち入ることができない。いくら天佑が皇帝の側近であろうと、自由な出入りなどできないはずだ。

「どうやって来るつもりか知らないけど……何時頃かしら?」
「恐らく、夕刻ではないかと」
「じゃあ、まだ時間はあるわね」

 玲燕は外を見る。太陽が沈むにはあと数時間ありそうに見えた。

「さっき落とした算木、探しに行くわ」

 玲燕はすっくと立ち上がる。

「お供します」

 鈴々も慌てて立ち上がる。
 玲燕は鈴々を連れて、先ほど女官に絡まれた場所へと向かった。

「えーっと、この辺のはずだけど……」

 玲燕は周囲を見回す。
 先ほどまで立ち話をしていた女官達の姿は既になく、辺りには人気がなかった。

「落としたのはこの辺りで間違いありませんか?」

 鈴々も周囲を見回し、玲燕に尋ねる。

「ええ。でも、ないわね」

 廊下の床面を見る限り、算木の木片はなさそうに見えた。

「ここはあまり具合がよくありません。早く探して戻りましょう」
「具合がよくない?」