「大丈夫。どこに落ちたかは予想が付くから、あとで探しに行くわ」

 玲燕はおろおろする鈴々を安心させるようににこりと笑うと、算木の入れられた木箱に蓋をする。

 算木は複雑な計算をするための道具であり、錬金術師の大事な商売道具。ただの木なので特段高価なものではないが、長年使ってきたものなので愛着はある。

「初っぱなから、やってくれるじゃない」

 放っておけばいいなんて思ったことを、撤回する。
 あの女官達、許すまじ。

「そうそう、玲燕様。早速、天佑様からの連絡です。のちほど会いに行くと」
「え? わかったわ」

 玲燕は頷く。
 玲燕がここに来たのは、皇帝の妃になるためではない。あやかし事件の真相を解明するためだ。
 そのための算段を相談する必要があった。

(でも、会いに行くって、どうやって?)

 後宮は皇帝の妻子が住む場所。
 光麗国の後宮の出入りはそこまで厳格ではなく、女官であれば出入り可能だ。
 しかし、男性となると話は別だ。