(新人に手荒い洗礼をしてやった、ってところかしら?)

 十中八九、玲燕が新入りの妃付きの女官だと判断して、わざとやってきたのだろう。

(鈴々に行かせなくてよかった)

 玲燕は、ふうっと息を吐く。
 人の悪意には慣れている。父が斬首されたあとしばらくは、世間もその噂で持ちきりだった。天嶮学士は稀代の大嘘つきだと。
 故郷に戻った玲燕は周囲に後ろ指を指され、とても辛くて悲しかったのを覚えている。
 それに比べれば、先ほどの女官がした嫌がらせなど痛くも痒くもない。

(どうせすぐにここを去る身だし、放っておけばいいわ)

 玲燕は大切に胸に抱えていた木箱を机に置くと、蓋を上けた。
 先ほど急いでかき集めたせいで、中の木片は乱雑に散らばっていた。

 鈴々はひょいと首を伸ばし、中を覗く。

「どうしても自分で運ぶと仰るから何かと思えば。これは、算木でございますか」
「ええ、そうなの」

 玲燕は木箱から四角柱の木をひとつ手に取る。四角柱の側面には、数字の「一」を意味する横棒が一本書いてあった。