銅貨二枚。つまり、庶民でも買えるような品であり、至って普通の算木だ。

 なんと返せばいいかわからず、女官は「大切な宝物なのだから、気をつけなさいよ」と無難な言葉をかける。

「はい、ありがとうございます。では、私は急いでおりますので。ごきげんよう」

 少女は朗らかに笑い、片手を振る。
 その後ろ姿をふたりは無言で見送り、顔を見合わせると頷き合った。

「間違いなく、変人だわ」
「ええ、そうね」

 銅貨二枚で買える算木が宝物の妃など、聞いたことがない。


   ◇ ◇ ◇


 玲燕は算木の入った木箱を大切に胸に抱え、自分の殿舎である菊花殿へと戻った。

「ただいま!」
「お帰りなさいませ、玲燕様」

 慌てたように立ち上がり出迎えてくれたのは、天佑が手配した玲燕付きの女官──鈴々だ。くりっとした大きな瞳が可愛らしい美少女で、少し高めの鼻梁と切れ長の瞳は周囲に知的な印象を与えている。

「随分とお時間がかかりましたね。女官のふりをして出かけるなど、本当に心配しました」
「ごめん、ごめん」

 玲燕は笑って誤魔化す。
 玲燕は先ほどの女官を思い出す。