女官のひとりが、近づいてきた少女へと声をかける。少女は立ち止まり、こちらを見た。

「引っ越しの荷物を運んでいます」
「へえ」

 女官は相づちを打つ。引っ越しということは、予想通りこの少女は新しい妃付きの女官だ。
 女官は少女が大事そうに持つ木製の箱をちらりと見る。

「その中には何が?」
「宝物です」
「宝物? 菊妃様の?」
「……まあ、そうですね」

 少女は口ごもりながらも、頷く。

 女官達の目がキラリと光る。
 新しい妃付きの女官が大事そうに抱えて運ぶ、宝物。きっと中身は宝石か衣だろうが、一体いかほどのものなのか。

「それでは、ごきげんよう」

 少女が先に進もうと歩き始めたそのタイミングを狙い、女官のひとりがさっと足を差し出した。
 少女はそれに躓き、勢いよく前に倒れる。

 ガッシャーンと大きな音が廊下に響く。少女の持っていた小箱が落ち、箱の中身が周囲に散らばった。

「痛ったー」

 うつ伏せに転んだ少女は上半身を起こし、床に打ち付けた肘をさする。

「あらあ。大丈夫? 突然転んで、どうされたのかしら?」