質素な民家は相当な年季が入っており、瓦には苔がむしている。
 外から見える窓には網状の不思議なものが貼り付けてあった。壊れかけた塀を応急修理したのかもしれない。
 ドアの横には木の板が置かれており、『お困りごとの解決、承ります』と書かれていた。
 ドアの反対側を見ると隣接して小屋があり、中には牛が繋がれているのが見えた。その横では犬が呑気に昼寝をしていた。

 ──トン、トン、トン。

 天佑はその屋敷の木製の戸を叩く。しかし、返事はなかった。

「いないのか?」

 忙しい中、都から丸二日掛けて来たのだ。この家の主に会わずには帰るわけにはいかぬと天佑は戸に手をかける。

 ガラリと引き戸を開けた瞬間、鼻につく独特の臭い。麻紐、バケツ、縁がギザギザした円盤……。玄関口から見える土間には乱雑に、使い方がよくわからない部品が散らばっている。

 天佑はその光景に眉を顰める。

「たのもう。どなたかおられぬか」

 大きな声で呼びかける。

「はい、いらっしゃい!」

 威勢のよい声が返ってきた直後、大きな反響音が響く。ガランガランッと金属がぶつかって崩れ落ちるような音だ。