後宮の人々はこの世に未練が残って成仏できなかったその妃が幽鬼となって殿舎にとどまり皇帝の訪問を待っているに違いないと噂し、いつしか菊花殿は幽客殿と呼ばれるようになった。
後宮の一番外れにある上に、何年も誰も住んでいなかったので手入れも行き届いていない。挙げ句の果てに、幽鬼がいる。
嫌がることはあっても希望するものなどまずいないような殿舎だ。
「……それはたしかに、変わり者だわ」
女官は眉を寄せて頷く。
「ただでさえ鬼火騒ぎが頻繁に発生しているのに、よりによって幽客殿なんて……。ねえ」
自分の殿舎によそ者の女が入内し、更には皇帝陛下の寵があったら……。幽客殿の幽鬼が怒り、もっとひどい災いが起きるかもしれない
そのとき、回廊の向こうに人影が現れる。
「あら、噂をすれば」
女官のひとりが、もうひとりの女官へと耳うちする。
「見慣れない子がいるわ。きっと、新しいお妃様付きの子だわ」
回廊の向こうから、髪の毛をひとつに纏めた可愛らしい少女が歩いてくるのが見えた。手には平べったい木箱を持っている。
「ちょっと。何を運んでいるの?」
後宮の一番外れにある上に、何年も誰も住んでいなかったので手入れも行き届いていない。挙げ句の果てに、幽鬼がいる。
嫌がることはあっても希望するものなどまずいないような殿舎だ。
「……それはたしかに、変わり者だわ」
女官は眉を寄せて頷く。
「ただでさえ鬼火騒ぎが頻繁に発生しているのに、よりによって幽客殿なんて……。ねえ」
自分の殿舎によそ者の女が入内し、更には皇帝陛下の寵があったら……。幽客殿の幽鬼が怒り、もっとひどい災いが起きるかもしれない
そのとき、回廊の向こうに人影が現れる。
「あら、噂をすれば」
女官のひとりが、もうひとりの女官へと耳うちする。
「見慣れない子がいるわ。きっと、新しいお妃様付きの子だわ」
回廊の向こうから、髪の毛をひとつに纏めた可愛らしい少女が歩いてくるのが見えた。手には平べったい木箱を持っている。
「ちょっと。何を運んでいるの?」