(きっと、今頃は私のことを話のネタに盛り上がっているわね)

 玲燕は息を吐く。
 突然皇都から役人がやって来て、一年分の家賃の倍以上の金額を払った上に玲燕を皇都に連れて行ってしまったのだから。あの片田舎では、十年に一度あるかないかの大ニュースだ。さぞや噂話も盛り上がるだろう。

「わかりました。読んでおきます」
「ああ、頼んだ」

 天佑はにこりと微笑む。

「それと、玲燕の殿舎が決まった。偽りの妃故、なるべく目立たないほうがいいと思い外れの殿舎にした。菊花殿だ」
「菊花殿? 偽りの妃?」

 玲燕は眉間に深い皺を寄せる。
 何を言っているのかと訝しげに天佑を見返すと、天佑は笑みを深める。

「潤王の五人目の妃だ。妃であれば宮城に常にいても違和感ないからな」
「なるほど。妃ですか」

 そこまで相づちを打ち、玲燕ははたと動きを止める。
 今、とんでもないことが聞こえた気が。

「今、なんと?」
「玲燕には後宮に入ってもらう」

 呆然とする玲燕に追い打ちをかけるように、天佑が言う。

「なんで! 謎を解くのに妃になる必要はないはずです」
「必要はないが、なったほうが勝手がいい。既に、手配済みだ。安心しろ、全てが解決したら出してやる」

 玲燕は唖然として天佑を見返す。
 皇帝の妃を迎え入れるなど、すぐにできるわけがない。一体どんな裏技を使ったのか。

「あり得ないんだけどっ!」

 玲燕の叫び声が屋敷に響き渡った。