天佑は頷く。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
天佑は玲燕の近くに置いてあった椅子に座ると、「お茶を用意してくれるか」と婆やに声をかける。婆や「ちょっと待ってね」と言うと、厨房のほうへと消えた。
その後ろ姿を見届けてから、天佑は玲燕を見つめる。
「玲燕を皇城の内部に連れて行く手はずが整った」
玲燕は凧を操っていた手を止める。制御を失った凧が地面に落ちてくるのを、天佑は空中で拾った。
(思ったよりも早いわね。さすがは若くして要職に就いているだけあるわ)
鬼火事件の容疑者として疑わしき面々に実際に会ってみたいと申し出たが、こんなに早く実現できるとは。人事を取り仕切る部署の要職にいるので、融通もしやすいのだろう。
「訪問は一週間後の予定だ。それまでに、これを暗記しておいてほしい」
天佑は腕に抱えていた包みを開くと、玲燕に分厚い書物を差し出した。一般庶民はほとんど目にすることがない貴重な上質紙に書かれたもので、端を麻紐で結んである。ざっと目寸で見た限りでも数センチの分厚さがあった。
「これはなに?」