都を出て丸三日。

 どこまでも広がる田畑以外には何もない。時折違うものがあるとすれば、穀物を食い散らかすカラス避けの案山子(かかし)か、土を耕す車を引く牛位のものだ。

「随分と遠くまで来たものだな」

 馬車に揺られていた甘《カン》天佑(テンユウ)はその景色を眺めながら呟く。
 殆ど整備されていない道の悪さから、揺れを起こさないように何重にも綿を敷いて贅を尽くした座面もその用をなしていない。尻の痛みもここまでくると、感覚がなくなってくる。

 やがて田畑も消え、辺りは山道に入った。

 秋が深まってきたこの季節、車窓から見える木々には時折赤いもの──色付いたカラスウリがぶら下がっているのが見える。
 外を眺めるのに飽きた天佑は馬車に揺られながら目を閉じる。

(本当にこんなところに、著名な錬金術師などいるのだろうか?)

 仕えている皇帝──潤王からの命でこんな田舎まで来たが、空振りになるのではないかと不安がこみ上げる。

 しばらくすると、ガシャンと音がして馬車が止まった。

「ここか……」

 馬車から降りた天佑は目の前の建物を眺めた。