皇帝が住む宮城を中心に、その周りに官庁が立ち並ぶ皇城、更にその周りに人々が住む外郭城が広がっている。外郭城の内部だけでも、雁路川と細い小川があり、さらに人工的に作られた水路が至る所に張り巡らされている。

 玲燕は空を見上げる。
 既に日はすっかりと暮れ、辺りは真っ暗になっている。

(やけに暗いと思ったら、今日は二十七夜か)

 漆黒の空には、線のように細い弧になった月が浮かんでいる。

「鬼火は見えませんね」

 玲燕は周囲を見回す。今日も、不審な光は見えなかった。

 一時間ほど歩いただろうか。
 今日も収穫なしかと諦めかけたときに、不意に離れた場所から声がした。

「鬼火だ!」

 玲燕はハッとして声のほうを見る。

「鬼火ですって?」
「行ってみよう」

 天佑が声のほうを指さし、足を早める。
 玲燕の視界の端に鈍い光が映った。

(あれは……)

 それは本当に一瞬のことだった。
 川上から川下に向けて、鈍い緑色の光が移動してゆくのが見えた。それはまるで子供の遊ぶ球のように、美しい放物線を描きすぐに消えた。

「今のが鬼火でしょうか?」
「ああ、例の鬼火で間違いない」