玲燕はまた一口、食事を口に運ぶ。
 外からは、秋の訪れを知らせる虫の声が聞こえてきた。



 玲燕との食事を終えた天佑は自分の部屋に戻った。
 私室にある机に向かうと、硯で墨を摺り、筆を執る。主である潤王に手紙を書くためだ。

 潤王の命は『東明に趣き、有能な錬金術師を連れて来てほしい』だった。それを受けて事前に調査をした上で東明に往復六日かけて趣いたのだが、出会えたのはあの少年の錬金術師だけだった。

「天嶮学か……」

 天佑もその名はよく知っている。
 今から十年前、先の皇帝──文王の怒りを買い、それを口にすることすら許されない失われた学派だ。

『天嶮学はまやかしではない!』

 強く言い切った玲燕の瞳の力強さを思い出す。

「不思議なやつだ」

 普段の天佑であれば、あの状況であれば探していた錬金術師はいなかったと諦めていただろう。けれど、射貫くようなあの眼差しを見たとき、なぜかこの少年に賭けてみたいという気持ちが湧いた。

「とくとお手並み拝見しようか」

 天佑は筆を進めつつ、口元に弧を描いた。


  ◇ ◇ ◇