そう指摘すると、天佑は穏やかに口の端を上げた。

「わたしの見立て通り、玲燕はなかなか頭の回転が速い。ここまで連れて来た甲斐があったよ」
「それはどうも」
「玲燕の予想通り、端からあやかしの仕業などとは思っていない。私は主の勅命を受けてこの件の解決に当たっている」
「……勅命?」

 ドクンと胸が跳ねた。
 勅命ということは、皇帝自らの指示ということだ。つまり、天佑の主は皇帝だ。

 かつて、父──秀燕はときの皇帝の命で事件解決に当たり、失敗して処刑された。幼い頃に見た恐ろしい記憶がよみがえる。

「悪いけどこの件、降りるわ」
「何?」

 天佑の眉間に皺が寄る。

「気が変わった。前金は返す。立て替えてもらった費用も、少しずつ返す」

 玲燕がそう言って立ち上がる。
 皇帝の命で事件解決など、冗談じゃない。皇帝は玲燕が最も忌み嫌う人物だ。

「待て」

 天佑が呼び止める声がした。

「途中で投げ出すとは何ごとだ。──それとも、天嶮学は所詮まやかしだから解決できないか」

 嘲笑の色を乗せた言い方に、玲燕は怒りでカッとなる。