「水辺が多いね。その火の玉を見た者の話では、この世の炎とは思えないような気味の悪い見た目をしていて、真っすぐに目の前を横切って行ったと」
「この世の炎とは思えないような気味の悪い見た目? どういうことですか?」

 玲燕は箸を止めて聞き返した。
 その話を聞いただけでは、一体どんな炎なのか見当もつかない。

「奇妙な色をしている」
「奇妙な色?」
「オレンジや緑、それに黄色だと」
「天佑様はそれをご覧になりましたか?」
「一度だけ。緑色の摩訶不思議な光がゆらゆらと宙に浮いていた」
「緑色……。ゆらゆらと……」

 玲燕は箸を箸置きに置くと腕を組む。炎が緑色など、確かに摩訶不思議だ。

「最近になって、朝廷の陰陽師が騒ぎ出してね。これは天の怒りの表れだと。我々としては一刻も早く事件を解決してこの騒動を終わらせたい」

 なるほどな、と玲燕は思った。

『一刻も早く事件を解決してこの騒動を終わらせたい』

 つまり、天佑はその不思議な光を端(はな)から鬼火であるなどとは思っていないのだろう。彼が恐れているのは天の怒りではなく、反皇帝派が活発になることだ。