顔を上げた天佑はその意図をすぐに理解したようで、何か言いたげな表情で口元を引き結んだ。玲燕はそれに気が付いたが、知らんふりをして話を変える。

「それよりも食事にいたしませんか?」

 玲燕は先ほどから気になっていた目の前の食台を見る。
 そこには見事な御馳走が用意されていた。白い米に、卵の入ったスープ、青菜の炒め物に搾菜、豚肉の煮物まである。その煮物からはまだ仄かに白い湯気が上っていた。

 家賃を払うにも難渋していた玲燕は、毎日の食事も粗食で済ませていた。こんなごちそうを目にするのは、父が生きていた頃以来だ。

「せっかく用意してもらった温かい食事が冷めてしまいます」
「ああ、そうだね」

 天佑は慌てた様子で箸を手に持つ。そして、手を合わせると食事を口に運び始めた。玲燕もそれに倣って食事を食べ始める。少し薄味のそれは、どこか懐かしい味がした。

「ところで、もう一度、例の鬼火騒ぎのことを教えてもらえますか?」
「ああ、もちろん。ここ数ヶ月のことなのだが──」

 天佑は頭の中で起こった出来事を整理するように、ゆっくりと言葉を紡いだ。