玲燕は、即座にこの老婆が天佑の言っていた〝婆や〟なのだろうな予想した。

 穏やかな雰囲気と、少しだけ曲がり始めた腰、深い皺の刻まれたその顔つきが、どことなく育ての親である容を彷彿とさせる。

 懐かしさを感じ、玲燕は自然と口元を綻ばせた。

 すると、じーっとこちらを見つめていた明明は僅かに目を見開き、箪笥の中を見た。そして、今しまったばかりであろう衣類をおもむろに取り出し始めた。

「おやまあ。年頃のお嬢さんにこんな衣服を用意するなんて」
「え?」
「お坊ちゃんにはきつく言っておきます」

 老婆はにこりと目を細め、立ち上がると全く歳を感じさせない足取りで部屋を出て行った。


    ◇ ◇ ◇


 その二〇分後、玲燕は夕餉の場で困惑していた。

「本当に申し訳なかった。てっきり少年だとばかり」

 床に頭がつきそうな勢いで謝ってくるのは天佑だ。

「いえ、私がわざと男性と取られるような態度を取ったのです。見知らぬ男が訪ねてきた際は必ずそうしているので」

 玲燕はなんでもないように答えた。