座面がふかふかしていたからきっと高級車なのだろうと予想が付いたが、それでも整っていない道を走れば振動がひどい。お尻は痛いし、未だに地面が揺れているかのような錯覚に陥りそうになる。

 玲燕は倒れ込むように寝台に横になった。何もしていないのに、ひどく疲れた。

(少しだけ……)

 玲燕はそっと瞼を閉じる。
 意識は急激に闇に呑まれていった。

    ◇ ◇ ◇

 なんだかとても、寝心地がいい。まるで真綿で体を包み込まれたかのような心地よさに、玲燕はうとうととまどろむ。

 そのとき、カタンと小さな音がして、はっと意識が浮上した。

「おや、起こしちゃったかね」

 声がした方向──背後を向くと、見知らぬ老婆がいた。
 半分近くが白くなった髪を後ろでひとつに纏め団子状にしている。よく見ると、老婆の前の箪笥が開かれており、中には沢山の衣類が収められていた。

「誰?」
「私はお坊ちゃんのお世話係りをしている者ですよ」
「お世話係……」
「お坊ちゃんは〝婆や〟と呼ぶので、お好きな呼び方でどうぞ。学士様」

 その老婆は顔に深い皺を寄せて、笑う。