「忙しいのね」
「まあな」

 こんなに広い屋敷は維持するだけでかなりの額が必要になるはずだ。

(ほとんど帰らないのであれば、手放せばいいのに)

 しかし、赤の他人である玲燕がそれを言うのは差し出がましいだろうし、天佑もそれ以上は詳しくは話そうとしなかった。

「ここだよ」

 天佑はひとつの扉の前で立ち止まる。
 案内されたのは手入れの行き届いた、明るい客間だった。二間続きになっており、一間には机と箪笥、もう一間には寝台が置かれている。寝具干すように伝えた、と言っていただけあり、寝台に敷かれた敷布からは太陽の匂いがした。

「もう少ししたら婆やが来るはずだ。それまで休んでいるといい」
「ありがとう」
「どういたしまして」

 天佑は口の端を上げると、その部屋をあとにする。玲燕は天佑の後ろ姿を見送ってから、部屋に置かれていた寝台へと腰掛けた。

「さすがに疲れたわ」

 こんなに長く馬車で揺られ続けたのは初めてだ。