◆ エピローグ


 久しぶりに戻った甘家の屋敷は、以前と変わらず人気がなかった。
 大きな屋敷には、大抵の場合先祖を祭った祖堂がある。
 玲燕は梅の枝を一本そこに供えると、手を合わせた。

「ここに天佑様が?」
「ああ、そうだな。両親とともに眠っている」

 じっと祭壇を見つめていた栄祐は、「茶でも飲もう」と玲燕を誘う。
 中庭に面した縁側に、玲燕は栄祐と並んで腰掛けた。

「それにしても、まさか褒美に女官になることを望むとはな。これでは、英明様にとっての褒美だ。錬金術師として勤務する女官は、光麗国で初だ」
「名前を偽り宦官と官吏を兼務する人間も、世界広しといえど天佑様おひとりでは?」

 玲燕はいたずらっ子のような目で、栄祐を見上げる。

「そうかもしれないな」

 栄祐は参ったと言いたげに、楽しげに肩を揺らした。