玲燕も釣られるように外を眺めると、密集した商店と多くの人々の往来する姿が見えた。故郷の東明ではまず見かけないほどの人手だ。

「今日は祭りか?」

 玲燕は天佑に尋ねる。

「祭り? いや、違うな。大明はいつもこの人出だ」
「ふうん」

 馬の足音に売り子の呼び声、歓談する人々の笑い声。町全体がやがやとしていて、随分と賑やかだ。

(大明って、こんなに賑やかだったのね)

 ここに滞在していたのは、もう十年も前のこと。いつの間にか、随分と記憶が薄れていることを感じる。

「そろそろ着く」

 天佑が外を眺めながら玲燕に告げる。

 間もなく、ガシャンという音と共に馬車が止まった。先に降りた天佑が扉を開けてくれたので、玲燕も続いて馬車から降りた。

 長らく住んでいた故郷の道とは比べ物にならないほどしっかりとした道路を踏み締め、前を向く。

「大きなお屋敷……」

 そこには大きな屋敷があった。白い塀が左右に延び、その中央にある木門には立派な門頭が付いている。その門頭は赤や青で鮮やかに塗られていた。

 天佑はその門を慣れた様子で開けた。