「さすがは天嶮学士の娘だ。見事だな」

 天佑は観念したように、笑う。

「俺を軽蔑したか?」
「いいえ」

 玲燕は首を横に振る。

「結局、私達は似たもの同士なのでしょう」

 玲燕が孤独の中で父の無念を晴らそうと誓ったのと同様に、天佑も孤独の中で兄の復讐を誓ったのだ。

「あなたに出会えたことを、心から感謝しておりますよ」

 この言葉に、偽りはない。天佑に会わなければ、今頃玲燕は家賃が払えぬまま家を追い出され、とうに死んでいたかもしれない。

 玲燕の言葉に、天佑の目元がふっと和らいだような気がした。

「甘様。そろそろ、陛下のところに行かなければならない時間では?」

 部屋の外にいた鈴々が、トントンと扉をノックして時間を知らせる。

「ああ、ありがとう。下がっていていいよ」

 天佑は扉の向こうに向かって礼を言う。扉の向こうで、人が遠ざかる気配がした。

「鈴々は天佑様が栄祐様だと知っていたのですね」
「鈴々は元々、特別な防護術の訓練を積んだ潤王付きの女官だ。……兄の婚約者だった」
「ああ、それで……」