「私の予想では、李空様です。当時、菊妃様はなんらかのきっかけで菊花殿と後宮の外をつなぐ秘密の経路があることを偶然知った。そして実際に後宮の外に出てしまい、光琳学士院に勤めていた李空様と知り合い男女の仲になった」

 玲燕は話しながら、手をぎゅっと握り目を伏せる。

「ただの女官だと思っていた恋人が菊妃だったと知ったとき、李空様はたいそう驚かれたはずです。そして、すぐにその関係を清算しようとした。だが、菊妃は納得しなかった。だから、殺すことにしたのです。妃との姦通は重罪です。もしこのことが誰かに知られれば、処刑となることは免れませんから」

 菊妃は死に際に、『愛していると言ったのに、どうして──』と呟いたという。
 最初にそれを聞いたとき、玲燕は彼女が『愛していると言ったのに、どうしてわたくしを夜伽に呼んでくださらないのか』と言おうとしていたのだと思っていた。
 けれど菊妃は、『愛していると言ったのに、どうしてわたくしを殺すの?』と言いたかったのだ。

 そして、菊妃の事件が墨で塗りつぶされていたのは李空の仕業だろう。余計な証拠が記載されていると、自身の破滅が近づくから。