「あなたは甘天佑ではなく、甘栄祐様ですね。本当の甘天佑様はもう亡くなっているのでしょう?」

 玲燕は射貫くように、天佑を見つめる。
 天佑の形のよい唇が、弧を描いた。

「なぜ、そう思った?」
「思い返せばこれまでに、たくさんの諷示がありました」

 本当にたくさんの諷示があった。

 兄が天嶮学を習っているいう天佑に対し、兄の存在が確認できないこと。
 逆に幼少期から天佑を知る桃妃は、彼こそが天嶮学を習っていたということ。
 甘栄祐が消えたのと同時に、甘天佑も全く別の部所に異動していたこと。
 その前後に体調を崩し、以前の記憶が曖昧だということ……。

「三年前のある日、光琳学士院にいた甘天佑様は過去の資料を眺めていてとある事件に疑問を覚えました。菊妃が自害した事件です。彼は光琳学士院が導き出した公式の見解に強い違和感を覚え、独自に調査しようとした。そして、そのことを李空様達に気付かれた」

 天佑は何も言わなかった。玲燕はそれをいいことに、話を続ける。

「菊妃様は自害ではありません。殺されたのです。──それも、とても親しい相手に」
「それは誰だ?」

 天佑が問う。