昼頃、そう言いながら菊花殿に入ってきたのは玲燕の待ち人である天佑その人だった。今日、玲燕は潤王と謁見することになっているのだ。
 昨日とは打って変わり、天佑は袍服を着て幞頭を被った宦官の姿をしている。

「朝来るつもりだったのだが遅くなって悪かったな。昨日、色々あって疲れているだろう? よく眠れたか?」

 玲燕は無言で首を横に振る。
 事実、昨晩もその前日も、気持ちが昂ぶっていたせいかほとんど寝ていない。けれど、まだ興奮が続いているのかさほど眠気はなかった。

「睡眠不足は万病の元だ。きちんと寝ろよ」

 天佑は肩を竦める。

「気になることがあり、確認するまでは眠れそうにありません」
「ほう。どんな?」

 天佑は玲燕の向かいに座ると、興味深げにこちらを見る。

「天佑様のことです」
「俺?」

 天佑は怪訝な顔をする。
 玲燕はぎゅっと両手を握り、息を吸った。

「それとも、〝栄祐様〟と呼んだ方がよろしいでしょうか?」

 楽な態度で聞いていた天佑の眉がピクリと動く。

「この格好のときは、栄祐だな」
「そうではありません」
「なら、どういう意味だ?」