「あら、むしろ感謝していただきたいです。私が制止しなければ黄様は菊妃様を傷つけた罪でこの場で処刑になっていましたよ?」

 鈴々は涼しげな表情を崩さず、黄連泊に言い返した。

(鈴々って、ただの女官じゃない……?)
 
 玲燕は驚いた。
 今の身のこなしは、ただ者ではなかった。ふと、後宮に初めて来た日に天佑が『鈴々がいるから大丈夫だと思うが』と零していたことを思い出す。

(もしかして、私の護衛も兼ねていたの?)

 今更ながらに知った事実に衝撃を受ける。
 一方の黄連泊は、今にも射殺しそうな目で玲燕を睨み付けていた。

「菊妃よ。続きを」

 潤王に促され、玲燕はハッとする。

「はい。あの事件を解決したとき、私は光琳学士院が事件を解決できないと言っていたことに強い違和感を覚えました。知識の腑である光琳学士院の面々に、あの手法が思いつかないなどあり得るのだろうかと。けれど、『解決するつもりがなかった』と考えれば納得がいきます」
「解決するつもりがなかった?」
 
 潤王が問い返す。

「はい。あの事件は陛下の失脚を狙ってのもの。黄家にとっては都合がよかったのです」