朝議とは皇帝の御前で各省部の者達が報告を行う定例会議で、朝廷の有力者が一堂に会する場でもある。

 玲燕は物陰からそっと朝議の様子を窺う。
 一段高い位置に座る潤王の前に、ずらりと官吏や宦官達が並んでいるのが見えた。後宮内部の井戸の輪軸交換作業が全て完了したという報告もされているのが聞こえた。

 定例の報告が終わる。

「昨晩、後宮で恐ろしい事件が発生した。この件で、菊妃が犯人を突き止めたので、ここで説明してもらおうと思う」
 いつもなら閉会の言葉を言うはずの潤王が発した言葉に、一堂は困惑したようにどよめいた。

「菊妃、ここへ」
「はい」

 潤王に呼ばれ、玲燕はすっと息を吸って深呼吸してから、前へと出る。突然の菊妃の登場に、朝議の場はざわざわと騒めく。

「静粛に」

 潤王の言葉に、辺りが一瞬で水を打ったように静まりかえる。

「菊妃。事件について、真相を話してくれるか?」
「はい、もちろんです」

 玲燕は緊張の面持ちで、頷いた。

「昨日の朝、後宮の内部にある桃林殿でひとつの事件が起きました。井戸に毒が混入され、それを飲んだ女官がひとり亡くなったのです」