「昨晩の話です。もう、溶けたのかと」

 女官は困惑したように、言う。

(まだ巳一つ時なのに……。おかしいわね)

 一日の気温は時間により変化する。一般的には日中の未の刻に一番気温が上がり、日が昇る直前の寅三つどきに一番下がる。夜寝る前に氷が張っていたのなら、朝は氷が広がっているはずなのだ。
 今はまだ巳一つ時。氷が全て溶けるには早すぎる。

(前日の夜間の氷が、昨晩まで残っていたってこと?)

 けれど、昨日の明け方はそんなに冷えていなかった。むしろ、昨晩急に冷えた印象だ。

(なら、どうして?)

 そして、ハッとする。

(誰かが氷を井戸に入れた?)

 その瞬間、玲燕の中でこれまでの全ての謎がひとつの筋となって繋がってゆく。

「この謎、解けたかもしれません」
「解けた?」
「はい。天佑様、至急で調べていただきたいことがあります。もし予想が当たっていたならば……潤王陛下の御前で、ご説明して差し上げましょう」

 玲燕は口の端を上げ、天佑にそう言い切った。


   ◇ ◇ ◇


 翌日、玲燕は朝議の場へと呼び出された。