玲燕はまっすぐに桃林殿へ向かって歩き始める。目的の場所に近づくにつれて、何やら騒がしいことに気付いた。

「随分と騒がしいですね」

 鈴々は喧噪の方向に目を凝らし、怪訝な顔をした。それは、ちょうど桃林殿の方角だった。

「本当ね。どうしたのかしら?」

 玲燕も進行方向に目を凝らす。なぜか、胸騒ぎを感じた。
 桃林殿の前には、たくさんの人々が集まっていた。女官に宦官、それに、厳つい姿の男達は武官だろうか。

「栄祐様!」

 玲燕は見知った人の姿を見つけ、声をかける。

「玲燕か」

 こちらを振り返った天佑の表情は、固く強ばっていた。

「何がありました?」
「桃妃付きの女官のひとりが、死んだ」

 天佑は強ばった表情のまま、答える。

「桃妃様付きの女官が?」

 玲燕は現場を見ようと、人混みをかき分けて前に出た。
 目の前に、庭園が広がる。庭園にはたくさんの木が生えていた。桃の木のようで、ピンク色の蕾がたくさん付いている。
 その木の下には、真っ青な顔をした女官達がいた。周りを取り囲む宦官や衛士達に状況を説明している。