たしかに紐を使った方法であれば、紐を持った手を離しさえすれば刀が落ちてくるので恐怖心は幾分か軽減されるかもしれない。

「でも、ここに来て奇妙に思いました。私はその事件の経緯を知っていたので、菊花殿はさぞかし天井が高い特殊な構造をしているのだと思っていたのです。この程度の場所から刀を落とし、胸に突き刺さるものなのでしょうか」

 鈴々は天井を見上げ言葉を続ける。

 その言葉を聞いた瞬間、ハッとした。
 玲燕は天井の梁を見る。高さは一丈(約三・三メートル)程だろうか。

(確かに、低いわ)

 物を落とした際に地面に加わる力は、落とした高さとその者の大きさに比例すると天嶮学で習ったことがある。こんな高さから小刀を落とし、胸に突き刺さるのだろうかという鈴々と同じ疑問を覚えた。更に、菊妃は服も着ていたはずだからその分力が分散されるし、まっすぐに突き刺さるとも限らないのに。

(刀が重かった?)

 玲燕は、すぐに違うだろうと首を横にする。小刀が重いといっても、限度がある。

(じゃあ、なんで?)

 そう考えて、ひとつの想像に至る。

(本当は、お父様が言うとおり他殺だった?)