つまり、三年前のある日、甘栄祐は止むにやまれぬ事情で宦官になった。しかし、内侍省に入省する前に息絶え、代わりに天佑が一人二役をすることになった。

(意味がわからないわ)

 時期的に考えて、死因は宦官になるために男性器を切り落としたことによる感染症だろうか。

 考え込む玲燕を見つめ、潤王は意味ありげに笑う。

「十分に諷示(ふうじ)してやった。天嶮学の汚名を晴らすことを目指すならば、あとは自分で考えろ」

 潤王はすっくと立ち上がる。

「今宵も楽しかった。次に会うときは、事件を解決したときだといいな」

 ひらひらと手を振って背を向けた潤王を、玲燕は呆然と見送る。

「十分に諷示してやった?」

 一体どういうことだろう。
 しんと静まりかえった部屋でひとり、考える。

 はっきりとわかったことはひとつだけ。潤王はこの期に及んで、玲燕の技量を試そうとしているということだ。

(本当に、わからないことだらけ)

 玲燕はため息を吐き、後宮に戻ろうと立ち上がる。
 殿舎の戸を開けると、冷たい風が体を打つ。

「寒っ!」