「ひとつだけいいことを教えてやろう。天佑の死んだ兄弟はかつて、光琳学士院に依頼されたとある案件に疑問を覚えて、調べ直していた。その最中の、非業の死だ」
「とある事件?」
「菊妃の自害についてだ」

 玲燕は眉根を寄せる。天佑の死んだ兄弟とは、弟の甘栄祐のことだろう。彼がなぜ、光琳学士院に依頼されていた過去の案件を調べ直したりしたのだろうか。

「……甘栄祐様は、なぜお亡くなりになったのですか?」

 彼については、疑問だらけだ。元々中書尚にいたのに、ある日突然宦官になって内侍省にいくなど、通常では考えられない。

「事故ということになっているな」
「なっている?」

 玲燕は眉根を寄せる。今の言い方では、潤王はそうだとは思っていないと言っているように聞こえた。

「亡くなったのはいつですか?」
「俺が即位する直前だ」

(あれ?)

 聞いた瞬間、違和感を覚えた。

 潤王が即位する直前に、栄祐は亡くなった。しかし、先日見た記録では、栄祐が内侍省に入ったのは潤王の即位したあとだ。

(宦官の栄祐様は、最初から天佑様だった?)