「昔の事件について、ご存じだったら教えてほしいのです」
「昔というと?」
「菊花殿で起きた菊妃の自害についてです」

 潤王の眉がぴくりと動く。

「なぜそれを聞く?」
「偶然、光琳学士院の書庫で資料を見つけて読んだのです」
「父親の名を見つけたというところか?」
「はい」

 玲燕は頷く。

「なら、書いてある通りだ。ある晩、後宮内の菊花殿で妃のひとりが胸をひと突きされて死んでいた。当初は他殺かと疑われて大騒ぎになったが、結論は自殺だった。当時の天嶮学士であった男は大きな過ちを犯したとして、ときの皇帝の逆鱗に触れた」
「……そうですか」

 玲燕はそれだけ言うと、黙り込む。
 もしかしたら潤王の口から何か新事実を聞けるかもしれないと期待していただけに、落胆が大きい。

「先ほど、光琳学士院の書物庫で偶然資料を見たと言ったか?」

 塞ぎ込む玲燕に、潤王が逆に尋ねてきた。

「はい、そうです」
「偶然、ね」

 潤王は意味ありげに笑いを漏らす。