潤王は素っ気なく答える。

(教えるつもりはないということね)

 これ以上、この話題について聞いても潤王は答えるつもりがなさそうに見える。
 けれど、その態度は返って玲燕の興味を引いた。

(……もしかして、ご懐妊?)

 色々と考えて、その可能性が一番高いように感じる。
 以前宴席で食事を運ばれて体調を崩したのは、食べ物の匂いによる悪阻なのではないだろうか。

 天佑が桃妃の様子を教えてくれないことも、桃妃は犯人ではないということも、彼女が妊娠しているとすれば説明が付く。

 未来の皇帝を身籠もっているかもしれないということは、ある程度の時期になるまで極秘事項だ。
 そして、子供を身籠もった桃妃が潤王を暗殺しようとするわけがないことも至極当然だった。ここで潤王が亡くなれば、子供が即位する前に別の皇族が即位することは火を見るよりも明らかだ。

(となると、犯人はやっぱり翠蘭ではない……)

 あの事件を改めて振り返ると奇妙な点ばかりが目に付く。

 どうして銀杯を使っているとわかっているのに毒に砒霜を使ったのか?
 どうやって犯人は翠蘭の持っていた酒器にだけ毒を混入したのか?