潤王が玲燕の腕をぐいっと引く。その弾みに袖が碁盤に振れ、碁石が木製の床に落ちる音が部屋に響いた。

 鼻先が付きそうな距離から、口元に笑みを浮かべた潤王が玲燕を見つめる。玲燕は目をしっかりと開けたまま、彼を見返した。

「この距離になったら目を閉じろ」
「嫌です。何をされるかわかりませんので」

 きっぱりと言い切ると潤王は目を見開き、玲燕の腕を放してけらけらと笑いだす。

「多くの女が俺の寵を望んでいるというのに」
「私は望んでいません」
「まあ、そうだろうな」

 潤王はなおも笑い続ける。足元には落ちた碁石が散らばりっていた。

「それよりも陛下。今、負けそうになったから対局をなかったことにしましたね?」
「何のことだ?」

 器用に片眉を上げる潤王を見つめ、玲燕は肩を竦める。
 こんな負けず嫌い、最近どこかでも見たような。

「話を戻しますが、陛下の仰るとおり、聞きたいことがあります。お聞きしても?」
「質問によるな」

 潤王は尊大な態度で腕を組む。

「では、答えられない質問にはお答えしなくて結構です」

 玲燕は頷く。