事件解決のために天佑に請われてここに来た。それなのに、解決の糸口するつかめない。
 今、この場で最も疑わしき人間を述べよと言われたら、玲燕は『翠蘭』と答える。だが、彼女の人となりを知っているだけに『それは間違っている』と自分の中で葛藤があった。

(きっと何かを見逃している。何を──)

 目をしっかり開けて、それを見つけ出さなければ。
 そうしなければ、自分がここにいる意味がない。


   ◇ ◇ ◇


 玲燕は正面に座る男をそっと窺い見る。
 碁盤を見つめる伏せた目は相変わらず鋭さがあり、数カ月前となんら変わらないように見えた。少なくとも、つい最近殺されそうになったことに対して怯えている様子はない。

 パチッと碁を置く音がする。潤王が顔を上げた。

「何か、俺に聞きたげだな?」

 玲燕はこちらを見つめる潤王を見返した。

「ばれましたか?」
「当たり前だ。熱い視線を送ってくる割に、恋情の気配が全くない」
「陛下に恋情はありませんので」
「ひどいな。仮初めでも、夫だというのに」