天佑から許可は得ているものの、玲燕はあくまでも本来ここにいるべきではない人間だ。玲燕は慌てて秘密通路に繋がる本棚をずらし、体を滑り込ませる。ちょうど入れ替わるように、誰かが書庫に入ってくる気配がした。

「それで、工事の進捗はどうなっている?」

(この声は、黄連泊様? もうひとりは誰かしら?)

 ひとりは梅妃の父である黄連泊の声だった。もうひとりの声もどこかで聞いたことがあるような気がして、玲燕はそっとその姿をのぞき見る。

(あれは、李空様?)

 それは、以前天佑と口論していた錬金術師──李空に見えた。

「つつがなく進行しております。数日内に後宮内の全ての輪軸が交換されます。最後が桃林殿です」
「よし。引き続き頼んだぞ」

 玲燕は耳を澄ます。

(輪軸……。例の工事が進んでいるかの進捗確認ね)

 そういえば、輪軸の交換工事をしているのは黄家が手配した業者だった。

「それで、その他の準備はどうなっている?」
「それについてですが──」

 ふたりはまだまだ去りそうにない。

(このままここで待つのは時間がもったいないかしら)