肝心のなぜ父が他殺と断定したのかが書かれた部分が黒く塗りつぶされており、解読できない。

(妃の自殺を、何者かによる他殺だと見誤った……)

 これが父が文王の逆鱗に触れた理由だろうか。確かに、不審者が入れないはずの後宮に第三者が侵入し、さらに妃を殺したなどとなれば関係する各所に激震が走る。見誤ったことにより方々からの批判を浴びたことは容易に想像が付く。

(最終的に事件を解決したのは、李空様……)

 先日少しだけ見かけた、初老の男性が脳裏に浮かぶ。神経質で気難しそうな男だった。

(…………。なぜお父様は、他殺だと結論づけたのかしら?)

 玲燕が知る父──秀燕は、物事を俯瞰し、精緻に観察し、あらゆる情報を総合的に考慮して客観的に結論を導き出す慎重な人だった。確固たる証拠を押さえていたからこそ、他殺だと結論づけたはずなのに。

 考え込んでいると入り口の扉ががらりと開く音がして、玲燕はハッとする。

(誰か来る?)