様々な試行錯誤を経て当時の主流だった腹帯式馬具から、器官を圧迫しない胸当て式の馬具へと改良した経緯が記録されている。ふたつの馬具を並べてみるとほんの些細な変化にしか見えないが、最終形に至るまでには何十もの試作品をつくり改良を重ねており、先人達の努力が垣間見られた。

「これ、すごく面白いわ」

 鞴(ふいご)の性能を上げたい、馬車の震動を軽減したい、田畑により効率的に水を引くことはできないか──。
 受ける相談は様々だ。どれも、玲燕にとっては興味深い内容ばかりだった。

「あら?」

 夢中になって読み進めていた玲燕は、ふと目に入った文字に目を留める。

(葉秀燕! お父様の名前だわ!)

 同じページに記載されていた依頼を受けた日付を見た瞬間、胸がドキッと跳ねた。

(これって……)

 それは、幼かった玲燕の幸せに終止符が打たれたあの運命の日の、ちょうど一カ月前だった。あの日のことを忘れた日は一度たりともない。なので、記憶違いのわけがない。

(もしかしてこれが、お父様が最後に受けた仕事?)

 玲燕は素早く視線を横に移動する。

「菊花殿で菊妃が亡くなった?」