「何がちょうどよかったの?」
「本日の茶菓は蒸し饅頭ですので。温かいうちにお召し上がりくださいませ」
「蒸し饅頭? 柑橘ではなく?」
「柑橘?」

 逆に鈴々に不思議そうな顔をされてしまった。

「さっき、他の殿舎の女官が茶菓に柑橘を運んでいるのを見かけたの。茶菓って、殿舎によって違うのかしら?」
「いえ。全部同じです。尚食局(しょうしょくきょく)が全て用意しますので」
「そうよね……」

 先ほど見えた、桜の刺繍。あれは、桃林殿の女官だ。

「もしかして、用意されたものでは足りずに追加で頼んだのかもしれません。私も頼んできましょうか?」

 柑橘がないことを不服に思っていると勘違いした鈴々が、立ち上がろうとする。
 それを玲燕は「大丈夫!」と慌てて止めた。

 さっきも香蘭殿で茶菓を食べたばかりなのに、さすがに食べ過ぎだ。

「いただきます」

 鈴々が持ってきてくれた蒸し饅頭をかじる。
 口の中に、餡の甘さが広がった。




 軽食後、玲燕はせっかく空いた時間を有効活用しようと、光琳学士院の書庫に行くことにした。先日天佑から言質は取ったので、いつ行ってもいいはずだ。