まだ幼かった玲燕は屋敷の使用人──容が自分の子だと偽って連れ出してくれたおかげで助かった。そのときの無念を思うと、今でも怒りで手が震える。

 玲燕は正面に座る天佑を窺い見た。再び目を閉じ、うたた寝をしている。長い髪の毛が一房こぼれ落ちて、額にかかっていた。

 今のところ、天佑の態度はとても親切で紳士的だ。
 玲燕が一年間、楽に暮らしてゆけるほどの多額の前金を入れてくれただけでなく、家畜の世話に関しても玲燕が住む地域の村長宅に赴き、しっかりと世話をするようにと目の前で話を付けてくれた。

 だが、事件を解決したらこれまでの役人達のように態度を豹変させる可能性も捨てきれない。
 だから、玲燕はできるだけ気を許さず、用件が終わったらさっさと家に戻ろうと自分に言い聞かせた。

(それにしても、あやかしなどとは……)

 先ほど天佑が話したこと。それは、なんとも滑稽(こっけい)な話をだった。