「梅の木なら、梅妃様のいらっしゃる梅林殿にたくさんあるはずだけど──」

 蘭妃はそう答えながら、顔をしかめる。

(相変わらず、蘭妃様と梅妃様は仲が悪いのね)

 玲燕は苦笑する。

 そういえば、作業人が梅妃の逆鱗に触れて井戸の輪軸の工事を請け負う業者が黄家の関連の業者に総入れ替えになった際も、蘭妃のいる香蘭殿だけは元の業者でよいと断ったと聞いた。

「去年、桃妃様にそれを伝えたら、『梅の花ではありませんが、わたくしの殿舎では桃の花が見頃なので見に来てください』ってご招待してくださったの。桃の花も、すごく綺麗だった」

 蓮妃はそこまで言って、表情を暗くする。

「桃妃様はお元気かしら? あの事件のあとから、お姿をお見かけしていないわ」
「時折、内侍省の者達や女官達が出入りしているのを見かけますから、きっとお元気ですよ」

 蘭妃は落ち込む蓮妃を励ますように、声をかける。

(なんかこのおふたり、姉妹みたいね)

 十二歳の蓮妃に対し、蘭妃は十七歳のはず。歳の差も、ちょうど姉妹のように見える原因だろう。