「なるほど」

 玲燕は頷く。

「酒が盛られたのは黄様と陛下のふたりでしたね。毒入りの酒が注がれた、もうひとつの銀杯はどれですか」
「目の前にあるではないか」

 天佑は玲燕の前に置かれた銀杯を指さす。玲燕はそれを見て、首を横に振った。

「いいえ、違うと思います。これとは別に、もうひとつあると思うのですが」
「いや。これしかない」
「これしか?」

 玲燕は眉根を寄せる。
 天佑の指さした銀杯は、美しい輝きを保っていた。けれど、もしも砒霜を入れた酒を満たしたなら、銀は錆びるはずなのだ。

「それは、すぐに黄殿が気付いて銀杯を叩き落としたせいで、中の酒が全て零れてしまったせいではないか?」
「中の酒が全て零れてしまったせい……」

 そうだろうか。玲燕は少し考え、首を横に振る。
 たとえ零れたにしても、全ての酒が銀杯から綺麗に拭い去られるわけではない。必ず、どこかに錆が出るはずだ。

「やはり、違うと思います」
「すり替えられたということか?」

 天佑は腕を組む。

「ここは普段、ごく限られた関係者しか入れない」
「そうですか……」