元々、鬼火は劉家と懇意にしている錬金術師が劉家からの相談を受けて考えついた手法が使われている。そしてその方法に気付いた別の錬金術師が真似をして、事件を複雑化した。

 光琳学士院は光麗国の知識の腑。当然、務めている錬金術師達も最高レベルの者達が集まっている。いくら事件が複雑化していたとはいえ、誰もあの方法に気付かないなんて──。

 強い違和感を覚えて考え込んでいると、「着いたぞ」と天佑の声がした。
 ハッとして顔を上げると、鍵のかかった木製の戸が目の前にあった。天佑は懐から鍵を取り出すと、それを開ける。
 部屋の中にはいくつかの棚があり、その棚には整然と物が並べられていた。

「件の事件の証拠品はこれだ」

 天佑は棚の一画を指さす。そこには、潤王暗殺未遂事件の日に使われていた証拠品酒器や銀製の杯などが置かれていた。
 まず目に入ったのは、黒ずんだ銀杯だった。液体を満たした部分だけが黒く変色しており、砒霜を混入したときの特徴的な症状だ。

「酒器は陶器製なのですね」
「ああ。黄殿が奪い取って投げ捨てた際に一部が欠けてしまっているが、中に僅かに残っていた酒からは毒が検出された」