「とにかく、余計なことをするなと伝えろ」

 老人が人差し指を突きつけて天佑に命令するように告げると、「お言葉ですが、李老子」と天佑が答える。

「生憎、李老子は私に命令できる立場にはありません」
「なんだとっ」
「私は既に吏部の人間ですので。書庫にて捜し物がありますので、失礼します」

 天佑は頭を下げると、くるりと向きを変えてこちらを見る。

(えっ。こっちに来る)

 玲燕は咄嗟に隠れようと書庫の奥へと向かう。あわあわしている間に、がらりと入り口の戸が開き、また閉められた。

「……こんにちは」
 気まずさを感じ、玲燕はおずおずと挨拶をする。すると、玲燕がここにいると思っていなかったのか天佑は目を見開く。

「玲燕。いたのか」
「たまたまです。菊花殿から今さっきここに来ました」
「その様子だと、先ほどの会話が聞こえたようだな」

(うっ、ばれてる)

 玲燕は目を泳がせる。

「聞こうと思って隠れていたわけではなく、たまたまここにいたら聞こえてきたのです」
「なるほど」

 天佑は頷く。