判然としないものを抱えながらも、また一枚ページを捲る。そして、次に玲燕が目を留めたのは光琳学士院の構成員について書かれたページだった。『甘天佑』という名が、しっかりと書かれている。

(天佑様、昔は光琳学士院にいたの?)

 以前、噂話に天佑は状元だったと聞いたことがある。
 状元とは、官吏になる試験を首席で合格した者に与えられる称号だ。そして、状元は知識の腑である光琳学士院に配属されることが多いという話も聞いたことがある。

「てっきり、最初から吏部にいたのだと思い込んでた」

 天佑の職歴を詳しく聞き出したことはないので意外に思う。
 そのときだ。「甘殿」という大きな声が聞こえて、玲燕はびくりと肩を揺らした。

「お久しぶりです。李老子」

 呼びかけに応える声も聞こえてきた。天佑の声だ。

(外から聞こえる?)

 玲燕は書庫の扉を少しだけずらし、そっと外を覗く。そこからは、老人と向かい合って立ち話をしている天佑の後ろ姿が見えた。角度的に老人の顔は斜め正面から見えたが、玲燕は知らない人物だった。

「ちょうど用があったからちょうどよかった。甘、一体どういうつもりだ?」