「これは、官吏の配置表かしら?」

 役所の名称と共に、役職や人物名が記載されている。書物の表紙を見ると、四年ほど前の年号が書かれていた。

(古いものを、保管しているのね)

 昨年と今年のものがないのは、書庫ではなく普段使う執務室に置いてあるためだろう。

(そうだ)

 玲燕は、吏部を見てみる。

「あれ?」

 吏部侍郎には、玲燕の知らない人の名前が書いてあった。

(天佑様、このときはまだ吏部侍郎じゃなかったのね)

 侍郎に昇格する前だったのだろう思いもっと下の位を視線で追うが、見当たらない。

(どこかしら)

 他の部署にも目を通していたそのとき、玲燕はとある名前に目を止める。

「甘栄佑?」

 そこには、天佑が宦官に扮する際の名である『甘栄佑』の名があった。所属は皇帝に仕え詔勅(しょうちょく)の作成や記録、伝達を行う中書省という部署だ。

(彼は元々、宦官ではなかった?)

 しかし、宦官とは男性器をなくした男性のみがなれる職であり、既に官吏の試験に受かって働いている者があとからなるとは考えにくい。

(となると、同姓同名?)

 そんな偶然があるのだろうか。