所々しか明かりが入ってこない仄暗い通路を抜けると、古い書物と炭の匂いが鼻孔をくすぐる。光琳学士院の書庫は、相変わらず古い書物であふれかえっていた。

「本当に、たくさん」

 玲燕はあたりを見回す。
 父を亡くしたあと貧しい暮らしをしていた玲燕にとって、書物はとても高価なものだ。数え切れない書物で溢れるこの書庫は、宝物殿のようにすら感じた。

(少しだけ……)

 たまたま目に入った書物を手に取ってみると、有名な思想家の教本の写しだった。玲燕も名前だけは知っているが、中身をしっかりと読んだことがない。
 その横も手に取ってみる。それは、かつて後宮に住んでいた公主や皇子達のために作られたからくり人形の設計図だった。

(これ、すごいわ!)

 この一冊だけでも、どれだけの価値があるだろう。興奮で気持ちが高揚する。

 玲燕は顔を紅潮させたまま、奥の書棚を見る。

「あそこの、年号が入っているのは何かしら?」

 書物庫の一番奥には、年号が入った書物がずらりと並んでいた。一番新しいものは二年前、古いものは四十年ほど前の年号が入っている。玲燕はそのうちの一冊を手に取ると、ぱらぱらと捲る。